近視治療の歴史を紹介
PCやスマホが普及した今ほどではないにしても、近視に悩む人は昔からいたはずです。古い時代にはどのようにして近視に対処していたのでしょうか。今回は、近視治療の歴史についてご紹介します。
近年までの近視治療は近視矯正
少なくとも近年になるまでは、近視治療とはすなわち近視“矯正”でした。近視を「治す」のではなく、目に入る光の屈折率を修正することで「見え方を矯正する」という考え方です。そして、その道具として用いられたのがレンズでした。
近視矯正のスタンダード「メガネ」の歴史
近視を矯正するツールとして、今日に至るまでずっとスタンダードであり続けているのがレンズを使ったメガネです。メガネにはどのような歴史があるのでしょうか。
【11世紀】レンズによる視力矯正への言及
カメラの原型であるカメラ・オブスクラ(ピンホールカメラ)を発案したアラビアの学者イブン・ハイサム(アルハーゼン)が、レンズにより視力矯正できる可能性を示唆しました。
【13世紀】拡大鏡が生まれる
石英または水晶で作られた虫眼鏡に近い形状の拡大鏡が、おそらくは書物の上に直接載せる形で使われ始めました。ただし近視の人向けではなく、老眼鏡の位置づけでした。
【14世紀】現在の姿に近いメガネの誕生
拡大鏡の登場からしばらくして、右目用と左目用の2枚のレンズをつなげたデザインのメガネが現れました。長い柄を持って支える手持ちメガネや、鼻の上に載せるようにして使う鼻メガネで、この頃もまだ老眼鏡としての利用でした。
【15世紀】近視用メガネ登場
近視用のメガネ(凹レンズ)が登場したのは15世紀半ばでした。グーテンベルクによる活版印刷技術の発明で聖書が普及し、それまで上流階級や聖職者に限られていた文字を読む習慣が庶民の間にも広まった時代です。
【16世紀】ツルつきメガネの元祖が現れる
紐で耳にかけるタイプや、頭の後ろで結ぶタイプといった現在のツルつきメガネの原型といえる形状のメガネが出てきました。
【19〜20世紀】コンタクトレンズ誕生
目に直接装着するコンタクトレンズは、イギリスで考案されたのが1830年頃、実用化されたのが1930年代前後と、かなり後になってからです。今日主流となっている使い捨てタイプが普及したのは1990年代で、それほど以前の話ではありません。
近視“治療”のスタート
長い間、近視はあくまで矯正するものであって治療するものではありませんでしたが、近年では薬剤を用いた治療、眼球に直接アプローチする治療も選択肢となってきています。
また、見え方の矯正についても、メガネやコンタクトレンズだけでなく、煩わしさを感じることがより少ない方法も選ばれ始めています。
レーシック(レーザー角膜内切削形成術)
レーザー照射で角膜のカーブを変えて光の屈折力を調整するという、眼球そのものに手を加えて視力を上げる治療方法です。日本では2000年代に入ってから急速に広まりました。
オルソケラトロジー
高酸素透過性のコンタクトレンズの内側が特殊な形状となっており、就寝時に装着することで寝ている間に角膜を平坦に矯正するものです。翌朝にはずした後もしばらくは矯正後の角膜形状が保たれるので日中は裸眼で過ごせる点が、メガネやコンタクトレンズにはない大きなメリットです。
ICL(有水晶体眼内レンズ)
眼球内に移植して近視を矯正する眼内コンタクトレンズです。レーシックのように角膜を削ることがない点、強い度数にも対応できる点、基本的にメンテナンス不要で手がかからない点、必要となれば取り出せる点などが特長です。
点眼薬
近視のほとんどは眼軸(眼球の奥行き)が長すぎて焦点を結ぶ位置が合わないことが原因(軸性近視)といわれ、成長に伴う眼軸の過剰な伸びを抑える点眼薬が、小児近視の進行抑制のために使われます。また、近くを見続けて一時的に近視になっている仮性近視のケースに対しては、水晶体の厚みを調節する筋肉の緊張状態を和らげる点眼薬が処方されます。
今回のまとめ
レンズで光の屈折率を調整すれば文字を拡大できるとわかって以来、メガネは進化してきました。さらに近年では、薬や外科的手術での近視治療も一般的となっています。良好な視界を実現するために重ねられてきた研究や発明を知ると、目の大切さを改めて実感しますね。